第一章 始まりの村 前編 狙われた村

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次はエルフだ。エルフは人間と比べて華奢な体つきと、長く尖った耳が特徴の種族である。 色白な肌に、青や緑といった人間ではあまり見かけない瞳の色。金髪や銀髪あるいは薄い茶色といった全体的に色素の薄い髪の色といった姿は、ゲームやファンタジーで見かけるエルフの姿そのままだ。 その華奢な体格から受ける印象に違わず、人間よりも肉体的にはやや劣るものの、非常に優秀な頭脳を持ち 識字率は人間よりも遥かに高い。 エルフとくれば次はドワーフだが、彼らもまた現実世界のフィクションで語られる姿とほとんど変わりはない。 人間よりも色黒で背が低いが、筋肉質で強靭な肉体を持っている半面、融通が効かず頑固であり、肉体面でも頭脳面でもエルフとは正反対の種族である。 最後に忘れてはいけないのはミューアと呼ばれる種族だ。 ミューアというのは人間に獣の耳や尻尾などが生えた種族――いわゆる獣人である。 全体的に細く引きしまった体つきをしており、俊敏で優れた運動神経はまさに野生の猫科を思わせる。視力や聴力といった五感も鋭く、まさに人間に動物の長所が備わったような種族だった。 人間、エルフ、ドワーフ、ミューアの四種族によってウィルステラの人々が暮らす社会は形成されている。 それぞれの種族が互いを尊重し、互いの特性を生かしそれぞれの役割を担ってきた。それがこのウィルステラの社会であった。今まで説明した四種族のどれにも属さないのが雑種(バスタード)と呼ばれる種族だ。 雑種という差別的な種族名は人間同士の間ではもちろん、夫婦の種族の組み合わせに関係なく、ごく稀に突然変異的に生まれてくることからそう呼ばれるようになったのだと言われている。 親の種族とは関係なく人間に似た姿で生まれてくる異質さと、外見上の特徴である頭部に生えた角が人間たちの敵である魔物を思い起こさせることから、差別と迫害の対象とされている。 胎児の時点で雑種には既に角が生えており、生まれてくる際に母体を大きく傷つけ、死産となることも少なくない。それゆえに雑種は忌子とも呼ばれ、周囲から忌避され、排斥されるのだ。 迷信深い辺境の村ほど雑種に対する差別は偏見は強く、運よく死産にならなかったとしても、親自身から捨てられることも少なくない。 都会においても差別は密かに、だが確かに存在し雑種という理由だけでまともな職に就けないことも珍しくない。
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