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ここまで露骨だといっそ清々しく、腹も立たなかった。こういう扱いを受けるのは今回が初めてではなく、もう慣れっこだ。ルミナが生まれ、ソウタが育った村で受けてきた仕打ちに比べれば、これくらいは迫害のうちにも入らない。
さすがにプレアのように「いやー、空いてていいわね。隣に気を遣わなくっていいって最高だわ」と笑い飛ばすほどの図太さはまだ持ち合わせていないが、付き合いで飲んでいるエールの苦味に内心で(やっぱり、葡萄酒にしておけばよかった……)と感じるくらいの余裕はソウタにもあった。
何よりも、ソウタはウィルステラに来て、一つ悟ったことがある。
それは、子供を育てるということは、恥ををかくことを受け入れるだということだ。
親自身に落ち度がなくても、子供のせいで親は恥をかくことがある。
他者のために平然と恥をかくなど、普通はなかなかできることではない。それを平然とやってのけるプレアは本当にちゃんとした“母親”なのだと思う。
10歳にも満たない少年としてウィルステラに転生しプレアに育てられ、彼女と一緒にルミナの面倒を見る中で、ソウタは本当の家族の温かさに触れることができた。
そんな温かい場所を守り抜きたい。村を出る際に抱いた決意を胸中で再確認し、ソウタが拳を握りしめたそのときだった。
「あ、あの……ちょっとええかな?」
冷たくされることに、ソウタたちは慣れていた。依頼を達成するなどしてある程度の信頼を勝ち得た後ならばともかく、初めて立ち寄った場所では周囲の人間から避けられるのが普通だった。
だから、近づいてきていた狐耳のミューアの少女に声をかけられても、ソウタたちははすぐに返答やリアクションを返すことができなかった。
「お譲ちゃんって、本物の雑種なん?」
椅子に座るルミナの斜め後ろに立ちながら、少女は興味深そうな表情で訊ねてきた。
「え? あ、はい。そうですけど……」
唐突に自分の種族について尋ねられたルミナが、戸惑いながら肯定する。
今までも何度かルミナが雑種かどうかを訊ねてきた相手はいたが、彼らの顔には例外なく疑念や嘲笑といった負の感情からくる表情が浮かんでいた。
だが、目の前の少女のひ表情からは、そういう嫌な感情は全く感じられなかった。まるで憧れのアイドルに出会ったファンのように目を輝かせて、ルミナのことを見つめている。
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