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よくわからない少女ではあるが、悪意を持った相手ではないのかもしれない。とりあえず何者なのな訊ねてみようかとソウタが口を開きかけると同時に、プレアが椅子から立ち上がり少女へと詰め寄った。
「うちの娘に何の用? 雑種だからって、差別してると叩き切るわよ」
「ちょっとプレアさん落ち着いて。いきなりぶった切るはいくらなんでも失礼過ぎますって」
ソウタは慌てて制止の声をあげた。まだ目の前の少女が信用できると決まったわけではないが、ぶった切るというのはさすがに乱暴すぎるとしか言いようがない。
「あ、えらいすんまへん。つい興奮してしもて」
ミューアの少女はすぐに笑顔を引っ込めて、謝罪の言葉を口にした。
「うち、雑種のことが好きなんよ。せやから、本物の雑種がいるって聞いて、つい声をかけてしもたんや」
「雑種が……好き? それはまたどうして?」
プレアの顔から敵意が消え、代わりに疑問の色が浮かぶ。
「そんなん決まってますやん! あの頭の小さな角! 可愛すぎて辛抱できへんんわ! ウチはミューアで頭には耳しか生えてへんから、角にはめっちゃ憧れるんよー!」
少女は頭の狐耳をパタパタと激しく動かし、拳を握りしめながらプレアに向かって力説した。ちなみにミューアがこんなふうに耳を激しく動かすのは、興奮している証拠だ。それは図らずも、少女の言葉に嘘が含まれていないことを証明していた。
「へぇ、雑種が好きだなんて、なんともまぁ変わり者だこと」
やや呆れ気味に息をついたプレアだったが、その表情は今までで一番棘のないものだった。
「へへ、よく言われます。それで、もしよかったら……相席してもええやろか?」
「そうね。私は構わないわ。二人はどう?」
「うん、わたしはいいよ」
「同じく。俺も構いませんよ」
プレアに意見を求められたソウタとルミナは、二人揃ってミューアの少女が相席することをあっさりと快諾した。
初対面の相手に唐突に相席を求められて何の迷いもなく了承するなど、行動は冒険者としてはあまりに警戒心が欠けていると言わざるを得ないものだったが、二人の規格外のスペックを考えれば無理もないことではあった。普通の冒険者と同じレベルの警戒心を持つには、ソウタとルミナの能力はあまりにも高すぎるのだ。
「というわけだから、オッケーよ」
そう言ってプレアはルミナの隣に座り直した。
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