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ソウタの言葉はお世辞でも社交辞令でもなく、本心だった。異世界から来たソウタには、この世界の料理の味にはどうしても完全に馴染むことができないのだが、プレアが作った料理だけは元の世界の料理と同じように美味しいと感じることができるのだ。
「あらあら、ソウタったら嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
「それはそうと、さっきからご色々飛んできてるんやけど!?」
さっきからルミナが言葉を発する度に口から飛び出す食べ物の欠片を浴び続けていたリュクスが、ついにたまらず声を上げた。いかに雑種の熱狂的フェチであっても、食べカスを浴び続けるのは我慢できなったらしい。
「はっ、ほへんははい!」
サイドポニーの髪を揺らし、反射的に謝罪の言葉を口にするルミナ。その口から放たれた今までで最大の食べカスがリュクスに襲いかかった。
「グエー! 米粒のマシンガンがー!?」
パンの欠片の嵐を浴びたリュクスが潰れたカエルのような悲鳴をあげた。
「す、すまない……うちのルミナがとんだ失礼を。大丈夫かリュクス?」
「へ、平気や……これくらい何ともないで」
「ダメでしょルミナ。浴びせるならソウタにしときなさい」
「相手が俺ならいいんですかっ!?」
「だってソウタだったら怒らないでしょ」
「そりゃ確かにそれくらいで怒ったりませんけど……って、そういう問題じゃないでしょうが!」
思わず納得しそうになって、慌てて怒鳴り返す。
周囲の人間から無視され、孤立していたはずのテーブルは、気がつけば周囲のテーブルと変わらない賑やかさに包まれていた。
そんなテーブルの様子を、やや遠巻きに離れた位置から眺めている人影があった。
「はぁ……空いてるのはあそこだけか。せっかく静かに休めると思ったのに、あんな騒がしいテーブルしか空いてないなんて、ボクはなんてついてないんだ……」
銀髪ツインテールのエルフが疲れ切った顔でがっくりと肩を落とした。
どこのお嬢様かと思わせる綺麗に整えられたツインテールの銀髪も。白磁のように白いエルフ特有の肌も。エメラルドでさえ嫉妬しそうな輝きを湛えた翠緑の瞳と、それと同じ色のローブに包まれた華奢な体も。
どこからどう見てもエルフの少女にしか見えないアリアだが、彼はれっきとした少年――男である。
彼の名誉のために言っておくが、アリアの女装癖は彼自身の性癖ではない。
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