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女性的な顔立ちはエルフにはそれほど珍しいものではないし、髪型やローブの趣味が少女チックなのも、名前がどう見ても女性なのも全て彼の両親が原因だった。
どうしても女の子がほしかったアリアの両親は、あろうことか彼を少女として育てた。
女の子のような髪型にされ、女の子のような服を着せられたアリアはどう見ても本物の女の子にしか見えず、同じ集落に住むエルフたちはもちろんのこと本人さえも自分の性別に何の疑いも抱いたことはなかった。
だが10歳になったある日、アリアは気付いた。自分が少女ではなく、少年であることを。
アリアは当然、自分の本当の性別について両親に問い詰めた。すると彼の両親はなんと彼を家の敷地内に監禁してしまったのだ。
そんな歪んだ愛情を持つ両親の下で監禁されること五年。つい最近ようやく家からの脱走に成功し、集落から逃げ出し冒険者になったという、壮絶すぎる過去を持つエルフである。
ちなみに監禁されていたといっても外の情報を与えられていなかったわけではないので、それほど世間知らずというわけでもなく、日常生活も問題ない。その辺りは歪んではいても愛情を注いで育てられた結果であった。
「しかも、もう少しで首都だっていうのに、宿代が微妙に足りなくて野宿するハメになりそうだし……ほんと、どうしよう……」
こういうとき、金を得る手段をアリアは知ってはいるのだが、それだけは己の尊厳に賭けてやらないことに決めていた。
とはいえ、このままでは本当に野宿をしなければならない。だが、世間一般の常識と最低限の生活力はあっても、冒険者となって日の浅いアリアに野宿の経験はない。
外で寝るなんてことが自分にできるのだろうか。途中で動物や魔物に襲われたりしないか、虫に悩まされたりしないだろうか。そもそも野宿と言ってもどこですればいいのか。
目の前のテーブルを視界に入れつつも見ずに生まれて初めての野宿への不安に頭を悩ませていると、
「あ、そこのあなた!」
「えっ? ぼ、僕?」
突然背後から見知らぬ修道服姿の少女に声をかけられ、アリアは面食らった。
「あなたしかいないじゃないですか。こんな皆が楽しそうにしてる酒場で、そんな暗い顔してるのは」
そう言って、青髪ストレートの修道服少女は、さらにアリアへと詰め寄った。
「その顔を見ればわかります。きっとあなたは、人には言えない悩みを抱えているんですね」
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