第一章 始まりの村 前編 狙われた村

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「は? いえ、別に悩みなんてないですけど」 アリアは即座に否定した。人に言えない悩みならあるが、それを今会ったばかりの少女に話す理由などない。だが修道服の少女はそんなことなどお構いなしだった。 「そんな悩めるあなたにお勧めの宗教があるんです! 時間は取らせませんから少し話しましょう!」 (あ、これ関わったらダメな人だ) 本能的にそう直感したアリアは話を切り上げることを決めた。 「宗教の勧誘ですか? 僕、そういうの間に合ってるんで……」 そう言って、立ち去ろうとしたアリアの手を、修道服少女の手がむんずと掴んだ。 「ソーレル様は太陽の神であり、人々に炎を与えた偉大なる古代神でして。炎のイメージから人間の天敵たる竜人との関連性を指摘され邪神とされることもありますが、これは大きな誤りなんです。そもそも炎がなければ、人間は竜人はおろか魔族や魔物にも」  「う、うわぁぁぁぁぁ!」 目を見開いたまま、延々と同じ調子で話し続ける修道服少女の異様さと不気味さに、アリアは絶叫した。 なんとか逃げようと身をよじるが、どう見ても少女にしか見えないアリアの細腕では修道服少女の手を振り払うことができなかった。 (集落の外ってこんな人しかいないの……? それならいっそ監禁生活に戻った方が――) エルフの少年が、諦めへと手を伸ばし、自ら閉じた牢獄へと再び身を投げる決意を固めかけたそのときだった。 「おい、やめろよ」 アリアと修道服少女の間に割って入る声があった。 「な、なんですかあなたは?」 突然話の腰を折られた修道服の少女が、目を丸くしながら割って入ってきた少年に向かって訊ねた。 「俺はソウタ・アケミ。冒険者だ。こっちは名乗ったんだ。そっちも名前くらい教えてくれたらどうなんだ、シスターさん」 「私はシスターではありません。れっきとした神官です」 「シスターでも神官でもどっちでも一緒だろ。嫌がってる相手に、無理やり勧誘してんじゃねーよ」 ソウタはあえて攻撃的な口調で言った。人が困っているのを見ると、なぜか怒りがこみ上げてきて、ついそれが口調や行動になって出てしまうのだ。こんなことは、元の世界にいた頃の自分では考えられなかった。 「あ、あの。ソウタさん……でしたっけ? 助けてくださってありがとうございます。でもケンカはまずいですよ。こんなところで」 「う、それは確かに……」
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