第一章 始まりの村 前編 狙われた村

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次に多かったのがいち早く逃げ出す者だった。ここには村人の姿も混じってはいたが、最も多かったのは外から訪れた旅人たちだった。旅人たちは旅慣れており、村人よりも状況判断が早かったことに加えて、この村に愛着がないことが彼らの判断をより迅速にした。 逃げ出した者の中には、冒険者の姿も少なからず含まれていた。ゲームやライトノベルの世界では勇ましく魔族や魔物といった存在に立ち向かう冒険者たちだが、実際の冒険者はイメージほど強くもなければ頼りになる存在でもなかった。 冒険者と言ってもその仕事の多くは薬草の採集や、荷物の運搬などといったその街や村の雑用であり、魔族や魔物と戦えるような冒険者は非常に少ない。 数少ないそんな冒険者たちも、国営の冒険者ギルドからの依頼を受けた上で、情報を仕入れ入念に準備を行わなければ魔族を討伐することなどできない。魔族とは、それほどまでに恐ろしい相手なのだ。 何の準備もなく魔族に勝てる冒険者など、本当に数えるほどしか存在しない。よって冒険者たちが逃げ出すのも当然のことであった。 その場にいた誰もが取り乱し、浮き足立ち、それなりの経験を経てきたはずの冒険者でさえも一目散に逃げ出す中でただ一人。迷うことなく第三の選択を実行した者がいた。 「魔族の襲撃!? ボコボコにして身ぐるみ剥ぐチャンス到来じゃない! メシ食ってる場合じゃないわよルミナ! ソウタ、あなたもそんな神官なんかほっときなさい」 両手で机を叩いて勢いよく立ちあがると、プレアは逃げ出そうとしている者たちとは対照的な活き活きとした表情を浮かべて酒場を飛び出していった。 「あ、待ってお母さん! 置いてかないでよー」 「まぁ、さすがに見て見ぬふりっていうわけにはいかないよなぁ……」 プレアの後を追いかけるソウタとルミナの表情からは、何の気負いも緊張感も感じられなかった。はしゃいで走り出した母に置いて行かれて慌ててその後を追う娘と、その様子をやれやれといった感じで見つめるその兄。どう見ても、そんな微笑ましい日常の一コマにしか見えなかった。 そんな三人の、魔族の襲来に対しては異常としか言いようのない行動に、リュクスが目を丸くして叫ぶ。 「ウソやん!? あの三人魔族に突っ込んで行ったんか!?」 「皆が平和に暮らしている村を襲うなんて許せない……! 被害が出る前になんとかしないと!」
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