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ソウタたちに遅れること数秒、固く拳を握りしめた神官少女が走り出していた。その険しい表情からは、この村を守ろうとする義侠心と、魔族に対する敵意がはっきりと感じられた。
「ふぅ……やっと解放された」
神官少女の勧誘からようやく解放され、アリアは安堵の息をついた。そんな彼女、もとい彼のもとに店主が大慌てで駆け寄ってきて口を開いた。
「あ、あんたたちも冒険者なんだよな? 頼む、魔族をなんとかしてくれ! このままじゃ、村が……村が!」
「それは依頼と受け取って構いませんか?」
切羽詰まった声で懇願する店主に対して、事務的な口調でアリアはそう確認した。
「さすがにタダでは引き受けられへんで。せやなー……今日の宿泊代をタダにしてくれるんやったら考えてもええで」
すかさず便乗したリュクスに、酒場の店主はあっさりと陥落した。
「分かった! 分かったよ! それでもいいから村を助けてくれ!」
「合点やで! もちろんそこのお兄さんも行くんやろ?」
「あ、うん。というか君、僕が男だって分かるんだ」
いつも女の子と間違えられてきたアリアにとって、ごく自然に男性として接してくれる相手はそれだけで好感が持てた。だからアリアはたった今言葉を交わしたばかりのリュクスについていくことを、二つ返事で了承したのだ。
ミューアの少女とエルフの少年が、連れ立って酒場から駆けだしていく。
その背中を見送りながら、冷やかな視線を向ける一人の少女がいた。
「ギルドから報酬も出ないのによくやるわね。ま、とりあえずは様子見ね」
机に頬杖をつきながら、少女は蜂蜜入りミルクの入ったコップを軽くあおったのだった。
襲来した魔族の姿は、酒場を出て騒ぎが起こっている方向へ向かって走ること数分、村の中心から家畜小屋へ向かう道の中ほどで見つけることができた。
浅黒い肌に二本の手と足。身長は約一メートル程度。一見すると体の基本形は人間と似ているが、暗闇の中でギラギラと不気味な光を放つ双眸と、体の各所に見られる意味不明の刺青を見れば一目で人間ではないことがわかる。そんな子鬼のような姿を六つの影が、我が物顔で村の夜道を闊歩していた。
「お、さっそく魔族を見つけたわよ! 何の魔族かよくわかんないけど、とりあえず斬れば倒せるでしょ。そーれ、レッツゴー!」
「ゴブリンくらい知っといてよお母さん! 冒険者の基本だよ!」
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