第一章 始まりの村 前編 狙われた村

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ゴブリン。 魔族の中で最も人々によく知られた最下級の魔族を知らないと言ってのけるという、冒険者にあるまじき無知盛大に晒した母に向かって、娘であるルミナが涙目でツッコミを入れる。 だが、決してプレアは頭が悪い方ではない。むしろ人よりもかなり良い方だった。 人より頭が良いがゆえに、プレアはこれまでの人生の中で、あまり頭に知識を詰め込むということをした事がなかったのだ。 頭の中の知識に頼らずとも、プレアは目の前の事態に対して最適な行動をとることができた。魔族について記憶することができないのでなく、記憶する必要がないのである。 村から逃げ出そうと道を走っていた冒険者たちの一団が、ソウタたちの姿を認めて目を見開いて立ち止まった。 一秒でも早く村から逃げ出したいと考えているはずの彼らが足を止めたのは、徒党を組んだゴブリンに立ち向かおうとしているソウタたちの姿が、それほど人目を引くものだったからだ。 まず戦闘に立っているプレアからして、普通ではなかった。 よく見ればどこか高貴さを感じさせる整った顔立ちと、使い込まれ実戦的な凄味を放つようになった装備品の組み合わせは、まるで冒険者に憧れる画家が描いた一枚の絵画のようだった。 身につけている防具は可動域と動きやすさを重視した、軽戦士が身につけるタイプのオーソドックスなレザーアーマーに過ぎなかったが、武器が普通ではなかった。 プレアが左右の腰に一本ずつ提げているのは、二本の片手剣。二本の剣を同時に持つことから、攻撃と防御が同時に可能であり、手数を用いた連続攻撃の手数いかなる近接武器にも勝る。 使いこなせば数ある近接武器の中で最も攻守のバランスの取れた性能を発揮するが、同時に数ある近接武器の中で最も技術を要求されるため、双剣を使う冒険者は戦士は非常に少ない。 そんな限られた者にしか扱えないはずの武器を、若い、それもかなり美人な部類に入る女性が携えているのを見てしまっては、冒険者たちが驚くのも無理はなかった。 その横に立つルミナもまた、注目を集めるのに十分な姿をしていた。身につけている防具は、母とは対照的な全身をしっかりと覆うタイプのレザーアーマー。こちらは重戦士用のスタンダードな防具である。 だが立ち止まった冒険者たちは、誰もルミナの防具など見ていなかった。彼らの目は一様に、彼女の背負っている両手持ちの大剣に向けられていた。
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