第一章 始まりの村 前編 狙われた村

22/29
前へ
/206ページ
次へ
大剣。冒険者の中でも特に屈強な、それこそボディビルダーのように鍛え抜かれた筋肉の塊のような体格でなければ扱うどころか持って振ることすらできない、双剣とは逆の理由で扱う者がほとんどいない武器。 それを年端もいかない少女が平気な顔をして背負っている姿は、常識という言葉を完全に無視していた。確かに雑種は他の種族よりも身体能力に優れてはいるが、ここまで規格外ではない。 この二人のどちらか片方だけでも、冒険者パーティ内にいればそのパーティで最も目立つ存在になることは間違いないだろう。 だが、そんな二人でさえソウタの前では霞んで見えた。 「け、拳闘士……」 驚愕に見開いた目をソウタへと向けながら、冒険者のうちの一人がその単語を口に出した。 武器を手に魔物や魔族と直接対峙するいわゆる前衛系戦士は、比較的軽い装備で素早さと対応力に優れた軽戦士と、重い武器での一撃必殺と打たれ強さに優れた重戦士に分けられる。通常戦士と言えばそのどちらかを指すが、実は前者にも後者にも属さない、第三の前衛系戦士がごく少数ながら存在する。 それが、拳闘士と呼ばれる者たちだ。拳闘士は戦士の中でも完全に別格とされていた。 理由は簡単である。重戦士や軽戦士が武器や鎧を装備して戦うのに対して、拳闘士は動きの妨げになる鎧の類は一切身につけず、武器すらも持たずに己の拳だけで戦う。素手で魔物や魔族に立ち向かうのがどれほど危険かは、現実世界で素手で猛獣に挑むことと同じと考えればわかりやすいだろう。 鎧を着ずに戦うからには、敵からの攻撃は全て回避するか、攻撃が当たるその瞬間に魔術師と同じように魔力で身体を強化して耐えるしかない。 どちらにしても敵からの攻撃を全て見切る必要があり、そのためには人間離れした反射神経と戦闘技術が必要となり、拳闘士になれる者は極めて少数だ。だからこそ、拳闘士は戦士の中でもワンランク上とされているのである。 だが、そんな拳闘士の常識はソウタには全く通用しなかった。ソウタは敵の攻撃など見切らなくとも、拳闘士として戦うことができるのだ。なにしろ、ソウタの魔力はほぼ無尽蔵なのだから。 魔力が無尽蔵ということは、通常の拳闘士が攻撃を受ける瞬間にのみ行う身体強化を、常に使用したままでいられるということだ。その気になれば、敵の攻撃を一切避けることなく全ての攻撃を受けながら戦うことも可能だろう。
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!

423人が本棚に入れています
本棚に追加