第一章 始まりの村 前編 狙われた村

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そもそもソウタは別に拳闘士になりたかったわけではない。冒険者の戦士の中でも別格だとか、ワンランク上だとか、そんなことソウタにはどうでもよかった。ただ、その桁違いの魔力で身体を強化しての近接戦闘が最も強かったのでそうしていたら、それがたまたま拳闘士の戦い方と一致していただけに過ぎない。もし剣を持てば今すぐにでも、軽戦士や重戦士を名乗ることができるだろう。 なぜソウタはそんな常軌を逸したスペックを持っているのか。 それはこの世界に転生したソウタが、竜人と呼ばれる種族だからだ。 ソウタはただ自由にドラゴンに変身できるようになっただけではない。体そのものが、このウィルステラ最強の種族である竜人へと生まれ変わっていたのだ。 竜人は人間の姿のままでも、あらゆる面で他の種族を上回る能力を持っている。ゲームに登場すればバランスブレイカ―になることは必至。サッカーに例えるなら一人だけ手を使おうが、審判が見ている前で他の選手にタックルしようが、何をしようが許されるレベルの反則さだった。 とりわけその戦闘能力は凄まじく、やろうと思えば今から首都に向かい一人で壊滅させることさえ不可能ではない。 だが、ソウタはその能力を全て発揮したことは、ウィルステラに来てから一度もなかった。それどころか、能力を可能な限り使わないように心がけてきた。不必要に注目を集めたくなかったから――では断じてない。ソウタが竜人としての能力を極力使わないように心がけてきた理由。それはソウタを除く全ての竜人が人間の敵だからだ。 人間と争っている魔族は、竜人に従う存在である。つまり竜人とは敵の親玉――さしずめゲームでいうところの魔王のような存在なのであった。 そんな竜人であるソウタの正体がもしばれようものなら、すぐにでも首都から大軍が押し寄せてくるだろう。ソウタ一人を討伐するためだけに。そうなれば、プレアもルミナも間違いなく殺される。それだけは何があろうと何が起ころうと絶対に避けたい事態だった。 だからこそ、戦闘が発生した場合ソウタにとって最も重要なのは、どれだけの力を出す必要があるかを見極めることだった。 強すぎれば正体がばれてしまう危険性があるし、弱すぎれば手加減していることがばれてしまうし、そもそも戦いに勝てなくなってしまう。
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