第一章 始まりの村 前編 狙われた村

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まさか反撃してくる人間がいるとは思っていなかったのか、一瞬浮足立った素振りを見せたゴブリンたちだったが、すぐに武器を構え臨戦態勢を取る。最下級とはいえやはり魔族だけあって、戦いへの順応が普通の人間よりも遥かに早い。 今ここに、人間と魔族の戦いの火蓋が切って落とされたのだった。 先手を取ったのは闘争心の平均値に勝る魔族たちの方だった。 先人を切ったゴブリンが、耳障りな雄叫びをあげながら、一直線に人間側の先頭に立つプレアに襲いかかる。 普通の人間ならば、それだけで身がすくんで動けなくなってしまいそうな迫力。荒事に慣れた冒険者であっても、身体を強張らせずにはいられないだろう。 だがプレアは特に慌てた様子もなく、眼前に迫るゴブリンが振り下ろした棍棒の一撃に、左手の片手剣を合わせて受け止める。そして、利き腕である右手に握られたもう一本の片手剣が、人間の関節の可動範囲から考えて最小の弧を描き、ゴブリンの喉笛を切り裂いた。 一撃だった。たった一撃で、プレアは人間よりも遥かに頑強な肉体を持つゴブリンを仕留めてみせたのだ。 その剣の冴えに、リュクスたち三人は思わず息を呑む。普通に考えれば、人間が魔族にこれほどあっけなく勝利するなどあり得ないことだ。 「ほーら、やっぱり斬れば倒せた。魔族の正体が何かなんて些細なことなのよ」 プレアは両手を腰に当てながら、勝ち誇ったようなドヤ顔を浮かべてみせた。 その流麗な剣さばきは、効率化された兵士の剣術とも、冒険者の自己流の剣技とも異なっていた。レーギアに伝わる貴族の剣技を、多くの実戦の中で磨き上げた、プレアが編み出したプレアだけの剣術。言うなればそれはプレア流刀殺法とも言えるものだった。 非凡さという面では、ルミナも母に負けていなかった。人間を上回る膂力から繰り出されるゴブリンの棍棒による一撃を受けて、ルミナは平然としていた。そして、そのまま驚愕に目を見開いているゴブリンに向かって、身の丈よりも巨大な剣を振り下ろす。 ゴブリンは棍棒で何と攻撃を受け止めようとしたが、無駄な努力だった。振り下ろされたルミナの剣は、棍棒ごと、ゴブリンの身体を真っ二つに両断していた。 先手を取ったはずのゴブリンたちだが、戦闘が開始されてわずか数秒で戦力の三分の一を失う結果となってしまった。 ソウタの戦いぶりは、レーギア親子に輪をかけて常識から逸脱していた。
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