第一章 始まりの村 前編 狙われた村

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ゴブリンの攻撃を余裕で避けて背後に回り込み、その腕を取って捻り上げる。 その光景には、両者の間にある圧倒的な力の差が表れていた。ソウタとゴブリンが同じ次元で戦っているならば、勝利を得るにはゴブリンに完全にとどめを刺す必要がある。命を奪わず情けをかける余裕がある時点で、もはや戦いというものが成立しないほど力の差があることを証明していた。 ろくな抵抗もできないまま戦力の半分を失ってしまったゴブリンたちだが、彼らは決して冒険者に蹴散らされるだけの、哀れで弱い存在ではなかった。 リュクスの魔晶銃から放たれる弾丸と、アリアの行使する魔法の集中砲火を受けながらも、その一匹のゴブリンは全く足を止めることなく二人に向かって突進していく。 結局その攻撃が二人にまで届くことはなかったが、ゴブリンが倒れたのは、攻撃が届く距離に入る寸前だった。あと一秒倒れるのが遅かったら、リュクスとアリアのどちらかが戦闘不能にされていただろう。 戦力の過半数を奪われて、さすがにゴブリンたちの動きが止まった。突撃を中断し、残された二匹のゴブリンたちが険しい顔で話し合う。 「どうする? こいつら強いぞ」 「どうするって……このまま収穫なしで戻っても親分に殺されるんだ。やるしかないだろ……」 その会話を耳にした神官少女の脳裏に、ある考えが浮かんだ。神官少女は頭に浮かんだ考えをそのまま言葉にして口に出した。 「親分ってことは、もしかしてゴブリンたちを率いている親玉がいるんでしょうか?」 「そう考えるのが妥当だろうな。しかもこの怯え方からして、かなり強力な魔族の可能性がある」 ガタガタと震え上がっているゴブリンの腕を掴んでいるソウタの言葉に、ルミナが目を見開いた。 「強力な魔族……!? まさか、ドラゴンさんがボスなんじゃ……」 「そこの君! 縁起でもないこと言わないで!」 ルミナの発言に、アリアが悲鳴のような情けない声をあげる。このエルフの少年のメンタルは、レーギア親子に比べてかなり弱いらしい。 「うーん……このまま問答無用で皆殺しってのもあんまりだし、一応この辺で降伏勧告してみるか」 ゴブリンたちが明らかに動揺をしていることを見て取ったソウタが、そんなことを口走った。 「そういうことなら私がやります」 そう言って、神官少女は一歩前へと進み出た。
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