第一章 始まりの村 前編 狙われた村

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そして残されたゴブリンたちの顔を真っすぐ見つめながら、大きく息を吸い込んでから口を開く。 「殺されたくなかったら大人しく降参しなさい。そうすれば命までは取りません!」 「降参したって、どうせ後で親分に殺されるだけだよな……」 「引くも地獄、進むも地獄かよ…」 神官少女の堂々とした降伏勧告に、ゴブリンたちは迷うような反応を見せた。 「どうやら迷ってるみたいですね。よほど背後に控えるボスが怖いのでしょうか?」 「迷ってないで倒しましょう。降伏させるよりも、戦利品を剥ぎ取って売り飛ばした方がなんぼかお得よ?」 目の前の事態の裏側にある真相に思考を巡らせる神官少女に対して、目の前の現実をシンプルに片づけようとするプレア。 「賛成! これも弱肉強食の掟なんや! というわけでサックリやってまうで!」 「悲しいけど、これが人間やエルフと魔族の宿命なんだ。諦めて成仏してくれるかな?」 「うーん……いまいち気が進まないなぁ」 「そうだよね。なんだかかわいそうだよ」 プレアの考えに賛同するリュクスアリアに対して、ソウタとルミナが煮え切らない言葉を口にする。 二人の考え方は、ウィルステラに生きる冒険者としては蜂蜜とガムシロップをミックスした上に大量の砂糖をぶちまけた物体よりも甘いものだった。もし魔族を殺すチャンスがあれば必ず殺す。それがウィルステラに生きる人間、エルフ、ドワーフ、ミューア全種族共通の絶対普遍の常識であった。 ソウタとルミナのその甘さは、二人の基本スペックの高さが原因だった。 生まれつきの戦闘能力が高すぎるために、魔族のことを心底恐ろしいと感じたことが一度もない。それゆえに二人の心には、人類の天敵である魔族の命を気遣う余裕が備わっているのだ。 不意に、腕を掴んでいたゴブリンの身体から力が抜け、だらりと肢体を投げ出した。不思議に思って確認すると、ゴブリンの目から光が消えていた。何が起こったのか考えるまでもなく、そのゴブリンが絶命していることは明らかだった。 「割り切りなさいソウタ。こいつらは、わたしたちの敵よ」 苦々しい表情を浮かべながら、諭すような口調で言った。彼女とて、好きで命を奪ったわけではない。そうしなければ自分たちが滅ぼされるから、仕方なくそうしたのだ。 それがわかっているから、ソウタは有無を言わさずゴブリンの命を奪ったプレアを非難したりはしなかった。
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