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ただその瞳を真っすぐに見返しながら、しっかりとした口調で「わかりました」と答える。
まだ生き残っていた二匹のうち、一匹は既に倒され地面に屍を晒し、もう一匹は逃げ出そうとしたところを背中をリュクスの魔晶銃で打ち抜かれて絶命した。
これで村に襲来した魔族は全て退治された。その場にいた誰もがそう思い込み、場の空気が戦闘から日常に切り換わろうとしたその刹那。
倒れていたゴブリンの一匹が突如として起き上がった。予想外の現実に、その場にいた全員の間に戦慄が走る。
立ち上がったゴブリンは武器を納めたルミナに襲いかかっていた。ソウタが降伏勧告を言い出す前に、リュクスとアリアに突進していたゴブリンは、まだ息があったのだ。
完全に虚を突かれ、棒立ちになっているルミナ。そんな彼女をかばうかのように神官少女が躍り出る。
「ちぃっ!」
ソウタは無意識のうちに、攻撃魔法をゴブリンに向けて放っていた。
魔法と言っても咄嗟に放ったため、何の属性も帯びていないただの魔力の塊にすぎなかったが、元々瀕死だったゴブリンの身体を吹き飛ばすには十分な威力だった。
(……しまった!)
ソウタは内心で自分の行動を後悔した。
さすがに咄嗟に魔法を放ったくらいで正体がばれることはないだろうが、それでも後で根掘り葉掘り質問されることは間違いないだろう。よくあるゲームの世界と違って、魔法と接近戦を一人でこなせる魔法戦士的な存在は、このウィルステラでは滅多にいないのだから。
だが、魔族によって略奪の限りを尽くされるはずだった村は、首都からの討伐隊を待たずして退治された。たまたま偶然居合わせた冒険者たちの手によって。
「ルミナはん、大丈夫か!? ウチの詰めが甘かったばっかりに……」
魔晶銃を腰の革製ホルスターに納めたリュクスが、ルミナに駆け寄って謝罪の言葉を口にする。
「いえ、私は大丈夫です。神官さんとソウちゃんが助けてくれましたから。それにリュクスさんのおかげで、最後のゴブリンさんを逃がさずに倒すことができました。ありがとうございます」
ルミナは、自分が不意打ちを受ける原因を作ったリュクスを非難せず、逆に軽くお辞儀をしてお礼の言葉を口にした。その礼儀の良さは、まさに母の教育の賜物だった。
「エルフちゃん、手伝ってくれてありがとね。おかげでさっくり片付いたわ」
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