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布教のために旅をするというのは、ウィルステラにおいてはそう珍しいことではない。ありふれた理由に、プレアは納得したように頷いた。
「まだ若いのに偉いわね。まぁ、私は神様に頼ろうなんて思ったことはないけど、物騒な世の中だし需要はあると思うわよ」
宗教に対して需要という身も蓋もない単語を使われたことに苦笑いを浮かべながらも、ヘリヤはプレアに向かって旅の目的を実行に移した。
「じゅ、需要って……まあそれはさておき、プレアさんもソーレル教を信仰してみませんか? 心に安らぎが得られますよ」
「いや、私、神様目指してるから」
胸を張って、真顔でプレアはそう断言した。普通に考えれば、ヘリヤを煙に巻き勧誘を断るための言葉としか思えないが、彼女は本気だった。無論本気で神になろうとしているわけではないが、プレアが冒険者として旅をしている目的は、ある意味ではそれに近いものでもあった。
「……そ、そうですか。それじゃあ仕方ないですね」
プレアの言葉をどう受け取ったのかはともかく、ヘリヤはあっさりとプレアを入信させることを断念した。ソウタとそう変わらない年齢で神官として認められ、一人で旅をしていることは素直に凄いことだが、プレアが相手はさすがに分が悪すぎた。
「で、アリアくんはどうしてアメルシアを目指してるわけ?」
「どうしてって言われても……うーん……強いて言えば、故郷から一番近い大陸だったからですかね」
「ふーん。何か故郷でトラブルでもあったの?」
「ま、まあ色々ありまして……とりあえず今の目標は、冒険者になって安定した稼ぎを得ることです」
「昨日の戦いぶりを見る限り、素質はあるんじゃないかしら。頑張りなさいよ、アリアちゃん」
昨夜の戦いで、アリアはリュクスと二人でゴブリンを一匹倒している。見たところアリアはまだ駆け出しのようだが、逆に言えば駆け出しの身であの場から逃げ出さななかったのは大したものだ。すでに才能の片鱗を見せ始めていると言っても決して過言ではない。
「あ、ありがとうございます。……って、さりげなくちゃん付けで呼ばないでください」
礼を言いつつも、女の子のような呼び方アリアはすぐさまプレアに抗議する。
「いいじゃない、アリアちゃんで。だって私思ったもん。『女の名前なのに、なんだ男か』って」
「アリアが男の名前で何が悪いんです!? 僕は男だーっ!」
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