第一章 始まりの村 前編 狙われた村

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振り返って確認するまでもなく、その視線のほとんどはこの場にいる冒険者たちものだ。村人や普通の旅人は、ちょっと見せつけたくらいでこんな視線を向けてきたりはしない。 冒険者が大人げのない、カップルを羨む中高生のような視線を向けてくる理由。それは冒険者の男女比率にあった。 冒険者の八割近くは男性であり、女性の冒険者というのは実は結構珍しい。 これはわざわざ冒険者などというハイリスクな職業に身を投じたがる女性が少ないこともあるが、最大の理由は結婚と出産である。 結婚して家庭を持っても冒険者を続ける男性が多いの対して、女性の場合は結婚し子供を出来たのを機に引退することが多い。その結果、男性の冒険者の方が人数が多くなるというわけだ。 男性の方が圧倒的に多い以上、冒険者のパーティはどうしても男所帯になりがちだ。数少ない女性冒険者も女同士でパーティを組むことが多く、結局男性冒険者は女っ気のないむさ苦しい生活を強いられることになる。 そんな背景があって、冒険者たちはソウタに対して嫉妬とやっかみをふんだんに内包した視線を向けてきているのだ。 彼らの気持ちは理解できなくもないが、そんなに羨ましがられても困る、というのが正直な感想だった。 すらりとした顎に、長い睫毛に縁取られた意志の強さを感じさせる凛とした瞳。鼻筋の通った端正な顔立ちと、細く形のいい眉。緩いウェーブのかかった背中まであるロングヘアを後頭部の位置で束ねたポニーテールのヘアスタイルも、プレアの魅力を引き立てている。 どう控え目に見積もっても、確かにプレアは美人の部類に分類されるだろう。 だがソウタにとってプレアあくまで母親、もしくは姉のような存在であり、そういう目で彼女を見たことは一度もなかった。 確かにドキっとさせられることはあるが、それはあくまで男性としての条件反射のようなものであって、プレアに女性としての魅力を感じてのことではない……と思う。 そもそもプレア自身が、娘と四つしか歳の違わない少年を男としては見ていないだろう。ときどき誘惑じみたことをしてくるのは、単にこちらをからかって遊んでいるだけだ。 (本気で心臓に悪いからやめてって言ってるんだけど、聞いてくれないんだよなぁ。ま、嫌われてるよりはマシか)
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