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それは、文化祭の十日ほど前の出来事だった。クラスメイトの南が、突然俺の机を勢いよく叩いて、言った。
「バンドやりませんか?」
「断る」
即答してやった。南が目をパチパチさせる。
「なんで?蓮くんって、お父さんが有名なギタリストなんですよね?ギター弾けますよね?」
「あぁ、弾ける。だが断る」
「どうして!モテますよ」
「すでにモテてるから必要ない」
「うわぁー、自意識過剰ー」
「事実だろ。ってかお前がバンドをする理由がそれか」
「いやぁー、それもあるんですけど、文化祭でバンドってかっこいいじゃないですか。高校に入ったらやろうってずっと憧れてて」
「阿呆らし……」
吐き捨て、窓の外に目をやった。話はこれで終わりだ、という意志を取った。つもりだった。
「蓮くん文化祭中暇でしょ!クラスの出し物の、お化け屋敷にもお化けも受け付けも、手伝う気もないし」
「典型的すぎて手伝う気が起きねーんだよ」
「じゃあバンドしょっ」
「なんでそうなる……」
苛立ちを隠すように首筋を掻く。あぁ言えばこう言う。まさに今の南のことだ。このままじゃ埒が明かない。
諦めさせる方法はないか、と思案した。そして、すぐに思い付いたことをそのまま口にしてしまった。
「ってかさぁ、メンバーは揃ってんの?」
「いえ、全然。ギターの蓮くんとボーカルの私だけです」
「おいっ!なんで俺がもう参加確定なんだよ!」
「え?だってさっきの言葉は参加する人が言う台詞じゃないですか」
チッ、しまったな。もっと考えてから発言すべきだった。後悔したところで、時すでに遅し。
ってか、美並はボーカルなのか。まぁ、確かにこいつの声はよく通る、澄んだ声質だ。ボーカルに向いているかもしれない。
とかなんとか思う俺は、すでに南の術中に嵌まったようだ。諦めの溜め息をこぼし、頭を掻きむしった。
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