第1章

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それは、文化祭の十日ほど前の出来事だった。クラスメイトの南が、突然俺の机を勢いよく叩いて、言った。 「バンドやりませんか?」 「断る」 即答してやった。南が目をパチパチさせる。 「なんで?蓮くんって、お父さんが有名なギタリストなんですよね?ギター弾けますよね?」 「あぁ、弾ける。だが断る」 「どうして!モテますよ」 「すでにモテてるから必要ない」 「うわぁー、自意識過剰ー」 「事実だろ。ってかお前がバンドをする理由がそれか」 「いやぁー、それもあるんですけど、文化祭でバンドってかっこいいじゃないですか。高校に入ったらやろうってずっと憧れてて」 「阿呆らし……」 吐き捨て、窓の外に目をやった。話はこれで終わりだ、という意志を取った。つもりだった。 「蓮くん文化祭中暇でしょ!クラスの出し物の、お化け屋敷にもお化けも受け付けも、手伝う気もないし」 「典型的すぎて手伝う気が起きねーんだよ」 「じゃあバンドしょっ」 「なんでそうなる……」 苛立ちを隠すように首筋を掻く。あぁ言えばこう言う。まさに今の南のことだ。このままじゃ埒が明かない。 諦めさせる方法はないか、と思案した。そして、すぐに思い付いたことをそのまま口にしてしまった。 「ってかさぁ、メンバーは揃ってんの?」 「いえ、全然。ギターの蓮くんとボーカルの私だけです」 「おいっ!なんで俺がもう参加確定なんだよ!」 「え?だってさっきの言葉は参加する人が言う台詞じゃないですか」 チッ、しまったな。もっと考えてから発言すべきだった。後悔したところで、時すでに遅し。 ってか、美並はボーカルなのか。まぁ、確かにこいつの声はよく通る、澄んだ声質だ。ボーカルに向いているかもしれない。 とかなんとか思う俺は、すでに南の術中に嵌まったようだ。諦めの溜め息をこぼし、頭を掻きむしった。
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