第1章

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「わーたよ。あと二人、ベースとドラムが揃ったら考えてやるよ」 「本当ですかっ!やった!」 無邪気に破顔しやがって。一瞬可愛いって思ってしまったじゃねぇか。 「じゃあメンバー探してきます!……の前に、ギターとベースの違いってなんですか?」 「自分で調べろ、バカ!」 南がメンバー揃いました、と俺の前で宣言したのは三日後だった。つまり文化祭開催まで残り一週間。 素人の集まりだったらそんな短い期間で形にはならないだろうな。それだったら俺は参加する意味はねぇな、断ってやるか。 そんな思いで南に連れられた音楽室に待っていたのは、子犬のような愛らしい顔立ちの男子と、清楚な顔立ちをした女子だった。南が二人を紹介する。 「えー、彼がベースの小宮くん。趣味でちょっとかじってる程度らしいです。で、彼女がドラムの舞ちゃん。チョー上手い人」 「南の説明がざっくりしすぎていてよく分かんなかったからさぁ、ちょっと聴かせてくんね?」 「いいですよー」 と小宮くんがベースを手に取った。 奏でられた音色は、良くも悪くもなかった。素人ってわけではなさそうだ。一週間練習すれば、バンドの形にはなるだろう。 「舞さんは?」 「初対面の人に名前で呼ばれたくないんだけど」 冷めた口調で言われ、俺は目を丸くした。俺に名前を呼ばれた女子は、普通キャーキャー喚くはずなのに。なるほど、クールビューティー気取りか。 「じゃあ苗字、教えてくれる?」 「なんでさっきから上から目線なの?ちょっと顔が良いからってなんでも許されるわけじゃないよ?」 「なんっ……」 「ストッープ。喧嘩はダメ!メンバー揃ったのにすぐ解散になっちゃう!」 「悪いけど南、俺参加する気は」 「ドラムの崎本舞ちゃんです!舞ちゃん、ちょっと叩いてくれません?」 「おい、人の話を」 「いいわ」 俺の言葉はことごとく遮られ、崎本がドラムの前に座る。 「チッ。まぁ、聴いてやるよ」 そして酷評してやる。 そんな思いが、開始三秒で打ち砕かれた。
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