第1章

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文化祭開催まで残り六日。俺が自前のギターを持って音楽室に行くと、南が目を丸くした。 「蓮くん、なんですかそのギター!」 「なにって……ダブルネックだけど」 6弦と12弦のダブルネックギター。親父が昔使っていたのを、譲り受けた物だ。今では俺の愛用品になっている。 「ダブルネックって……なに、顔だけじゃなくギターもカッコつけたいの?」 「あ?別にカッコよくねぇだろ。ただ……ド、ドラムがすげぇんだから生半可な気持ちじゃ望みたくなかっただけだよ」 チッ、あんまり驚かなかったか。まぁ、まだテクニックが残ってる。 そんな思いでいると、ふと小宮くんが視界に入った。どことなく悲しげな表情だ。 「どした?小宮くん」 「いや……崎本さんのドラムはすごいし、蓮さんのギターもすごそうだし、南さんの歌声も綺麗だし……僕だけ、素人だなーって」 ま、そりゃそうなるか。 悲観的な小宮くんにかける言葉が見つからないのか、南がそわそわと落ち着きをなくした。崎本は素知らぬ顔だ。 こうなることは予想していた。なにも手は打ってないわけじゃない。俺は口を開いた。 「大丈夫だよ、小宮くん。昨日聴いた君の演奏は中々良かったよ。残り六日、猛特訓したら格段に上達するよ」 前半本当、後半半分嘘。上達はするだろうが、格段にとまではいかないだろう。 その為にも、俺はダブルネックを選んだのだ。俺がカバーできるところは、カバーしようと。 そんな思いを知る由もない小宮くんは、パアッと顔を輝かせた。 「本当っすか!じゃあ蓮さん教えてください」 俺に教えを請うのか。ま、仕方ないか。 その日から、バンド練習が始まった。 小宮くんに教えたり、崎本といざこざがあったり、南の歌声はやっぱり澄んでいたと感心したり。 六日は、あっという間にすぎた。 文化祭当日。
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