第1章

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俺たちの他にもバンドがいて、広大な体育館には五百人以上の歓声が続いていた。俺たちの出番は十組中、最後。 次だ。 「あぁー、ドキドキする」 南と小宮くんが、胸を押さえて深呼吸を繰り返す。ドン、と構えているのは俺と崎本だけ。 「ま、楽しくやろーぜ」 そして、出番がきた。舞台に上がると、黄色い悲鳴が耳をつんざいた。それが静まったのを見計らい、崎本がスティックでリズムを取る。 一、二、三、四──。 小刻みな小太鼓の低音から始まり、連続する金属音。 被せるかのように、ベースの高音、ギターの6弦の心地よい低音が交わる。 そして、ボーカル。 広大な体育館の隅々まで行き渡るような、それでいてどこまでも澄んだ、静かで透明感溢れる歌声が奏でられる。 Aメロ終盤、ドラムの一際高い重低音がサビの始まりだ。 6弦から12弦──力強い高音はベースとさらに交わり、絶妙な音色へと化していく。 ドラム、ベース、ギター、ボーカル。 全てが一つとなって体育館中に響き渡る。 けど、まだ終わらない! ダブルネックギターの利点──6弦の心地よい低音と12弦の力強い高音。 二つが一つであるかのように、弦を弾く。合わせて、ドラムのスティック捌きも早くなる。 重低音、金属音、高音、高低音、歌声。 全てが交わり、体育館に今日一番の歓声が沸き起こる。 響く音楽、絶叫する観客、揺れる体育館。 五秒前──三、二、一。 フィニッシュは、綺麗に収まった。 絶叫が再び沸き起こる。 それを背に受けて、俺たちは舞台裏に捌けていった。 全員、満面の笑みで。
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