第一話 七月二十二日月曜日 始まる

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 今日も嫌になるくらい混雑しているホームへ立つ。  会社までの電車は、スシ詰め状態で四十分。  本社は自宅の最寄り駅から普通電車で十分の所。もちろん、左遷とかそんなんじゃない。  むしろ、その逆。新しいプロジェクト用に用意された新ビルは、本社から選りすぐりの人材が集められた、いわば『選ばれた人間』ってヤツが集まった所なんです。俺はその中のルーキー。  その証拠に、我社でも有名な『仕事のできる男ランキング』首位独占で名高い鈴丸慎一先輩が一緒に移動した。というか、実は先輩に引き上げて貰った口なんだ。  これがまた、実に後輩思いのいい人。  入社して早々、運良く先輩の下に配属になった俺。先輩は丁寧に忍耐強く、時にはユーモアを交え一から俺に仕事を教えてくれて……。  ホント爽やかで、仕事が出来て、面倒見よくって、品があり、顔もカッコイイ。いったい天は、彼に何物与えちゃったのか。   そんな公私共に充実した人生を送るワタクシも、実は安易に人に言えないような悩みを抱えていたりもする。悩みの種……悩み? うん。悩みちゃ悩みだわ。  ホームに電車が入ってくる。既にほぼ満員の車輌。なのに、下りる人はほんの数名。そこへ自ら毎朝飛び込んでいかなくていけない。  ヤツの待つ蜘蛛の巣へ。
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