69人が本棚に入れています
本棚に追加
⑨
「決まってるだろ、当たり屋だろ。
いるんだよ、そういうヤツ。借金をなんとかしたくてワザとクルマにぶつかるヤツ。
いやあ、あんたも災難だねえ、こんな疫病神のような女にぶつけるなんて。
覚悟しなよ、相場の5割、いや、10割増しでふんだくられるぜ」
男は七海と瀬名に視線をいったりきたりさせながら、嗤い声をあげた。
「違います! そんなんじゃありません!!!」
七海がほとんど叫ぶようにいう。
いった瞬間、七海の顔が苦痛にゆがんだ。
「七海!」
母親がナースコールのボタンを押す。
「もう、帰ってください!」
男に向かっていうも、男はその場を動こうとはしない。
なにかに気づいたかのように、じろじろと瀬名の顔を見つめている。
「どこかでみたことがあるな、あんたの顔」
そこへ担当のナースが駆けつけてきた。
「どうかしましたか?!」
そのときになってはじめて男が動いた。
去り際、男が瀬名に指を向けていった。
「そうだ、『悲劇のエース』くんじゃねえか」
最初のコメントを投稿しよう!