第1章 最悪の出会い

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    ⑩  廊下にでると、学生服姿の少年がいた。  スポーツバックを提げている。  七海の弟の諭だ。 「瀬名さん、お話があります」  真剣な表情で諭がいった。 「姉ちゃんは……いや、姉は当たり屋なんかするようなひとじゃありません!」  病院の中庭で諭は瀬名に向かってきっぱりと断言した。 「信号を無視して飛び出したって聞いたけど、それだってわけが--」 「わかってる。そんなひとじゃないことはぼくにだってわかる」  沈黙がわだかまる。  諭が悔しそうに拳を握りしめている。 「ちょっと座ろうか」  瀬名はケヤキの下のベンチに諭を誘った。 「きみは野球をやっているのか?」  諭がこくりとうなずく。 「あいつを殴りたかった。でも、これから大事な大会がはじまるから……」 「秋季大会……アキタイか……」  過ぎ去った青春を懐かしむかのように瀬名がつぶやく。  諭は病院の廊下で懸命に自分を押さえつけていたのだ。
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