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⑪
「あの男はなんなんだ?」
瀬名が諭にきく。
「借金取りです」
予想通りの答えが返ってきた。
「よかったら、事情を話してくれないか」
「はい……」
諭がぽつり、ぽつりと語りだす。
諭の父・下條茂(しもじょう・しげる)は下町で小さな印刷工場を営んでいた。
しかし、最近の不景気の波に呑まれ、経営は悪化。
赤字を補填すべく株や先物取引に手をだし、さらに傷口を広げてしまった。
借りられるところからはすべて借り、それでも足りなくなった茂はとうとう闇金にまで手を伸ばし、負債総額は一億を超えるまで膨れあがる。
とうてい払いきれるものではない。
茂は”とんだ”。
行き先も告げず、ふらりと家をでたまま消息を絶ったのだ。
家族が茂の負債総額を知ったのは、そのあとであった。
「姉ちゃんは親父の行方を追っていたんです。
その矢先に…その……事故に……」
諭がいいにくそうに”事故”という言葉を口にする。
「いいんだ」
瀬名はうつむく諭の手を握った。
「悪いのはぼくだ」
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