第1章 最悪の出会い

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     ⑫ 「あ…あの俺、今度ベンチ入りすることができたんです!」  話題を変えるかのように、明るい声で諭がいった。 「20人の枠に入ったのか、おめでとう!」  瀬名が諭にとっての”快挙”を祝福する。  諭の通う泉野(いずみの)高校は都立の進学校だったが、一昨年の夏の地区大会でベスト4に進出。  一挙に部員の数がそれまでの三倍にまで増え、レギュラー争いが激化した。  そんななか、バッティングのセンスを買われ、今回初めてベンチ入りを果たすことができたのだと諭はいう。 「守備は特訓すればいくらでもうまくなる。  今後、レギュラーに選ばれるかはきみの努力次第だぞ」  瀬名が諭をはげます。  だが、諭はその言葉にはのらず、瀬名の目をみつめて懇願するようにいった。 「よかったら、今度の日曜日の試合、見に来ていただけますか?」  なぜか悲痛といってもいいほどの必死さが伝わってくる。 「ああ……いいけど……」  気圧されるように瀬名がうなずく。 「これが俺の最後の大会になると思うから……ぜひ、見に来てください!」  訴えるような諭の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
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