69人が本棚に入れています
本棚に追加
⑫
「あ…あの俺、今度ベンチ入りすることができたんです!」
話題を変えるかのように、明るい声で諭がいった。
「20人の枠に入ったのか、おめでとう!」
瀬名が諭にとっての”快挙”を祝福する。
諭の通う泉野(いずみの)高校は都立の進学校だったが、一昨年の夏の地区大会でベスト4に進出。
一挙に部員の数がそれまでの三倍にまで増え、レギュラー争いが激化した。
そんななか、バッティングのセンスを買われ、今回初めてベンチ入りを果たすことができたのだと諭はいう。
「守備は特訓すればいくらでもうまくなる。
今後、レギュラーに選ばれるかはきみの努力次第だぞ」
瀬名が諭をはげます。
だが、諭はその言葉にはのらず、瀬名の目をみつめて懇願するようにいった。
「よかったら、今度の日曜日の試合、見に来ていただけますか?」
なぜか悲痛といってもいいほどの必死さが伝わってくる。
「ああ……いいけど……」
気圧されるように瀬名がうなずく。
「これが俺の最後の大会になると思うから……ぜひ、見に来てください!」
訴えるような諭の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!