第1章 最悪の出会い

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   ③ 「でも、おまえ、なんだって……」  母がそのあとの言葉を飲み込む。  いいたいことはわかっている。  なぜ……  赤信号の交差点に飛び出したか? 「そりゃあ、ショックなのはわかるけど……」 「家、とられちゃうんでしょ!」  母を難詰するかのように七海が声をあげた。 「お父さんはどこ?! どこへいったの!」 「姉ちゃん!」  諭が再び七海の肩を押さえつける。 「絶対安静だっていったろ! 興奮すんなって!」 「…………」  七海は唇を噛んだ。  母に怒りをぶつけてもしょうがない。  家族に隠して、借金を放置してきた父がすべて悪いのだ。 「あたしをはねたひとは……?」  王子様のような上品な顔立ちのあのひと。  七海はかえって申し訳ない気持ちになっていた。  あのひとは悪くない。  信号を無視してふらふらと飛び出した自分がみんな悪いのだ。 「なんていうか……」  なぜか瞳をキラキラと輝かせて諭はいった。 「姉ちゃんはスゲーひとにはねられたんだよ」
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