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⑥
まいったな……
病院の中庭のベンチで瀬名はひとりうなだれていた。
「そうだ、イワミカに電話をかけなくっちゃ」
携帯を取り出し、番号をプッシュする。
『遅ーい、コーリュー! いま、どこ?!』
いきなり怒鳴り声が電話越しに飛び込んできた。
「実はまだ、東京」
『えーっ、なんで!?』
「それが事故っちゃって」
瀬名が電話の相手に向かって事情を説明する。
『そんなの、わるいのはその女じゃん!』
「そうかもしれないけど、ひいてしまったのはぼくだから……」
『なにが、ぼくだから、よ。しっかりしなさいよ。日本に帰ったのいつよ?
時差ボケで注意力散漫になってたんじゃないの』
「それもあるかもしれない。……とにかく、島には帰れない。みんなによろしく伝えてくれ」
『みんな、コーリューがくるのを楽しみにしてたんだけどな』
「わかってる。本当にすまない」
見えない相手に向かって頭を下げると、瀬名は通話をきった。
ヒグラシが去る夏を惜しむかのように鳴いている。
4年ぶりに帰ってきた日本だが、帰国早々トラブルにあってしまった。
「メアリーにも報告しとくか……」
瀬名は気鬱げにつぶやくと、国際電話をかけた。
早口の英語でまくしたてられるのを覚悟する。
メアリーはいうだろう。
「すぐもどってきなさい」と……。
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