第1章 最悪の出会い

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   ⑥  まいったな……  病院の中庭のベンチで瀬名はひとりうなだれていた。 「そうだ、イワミカに電話をかけなくっちゃ」  携帯を取り出し、番号をプッシュする。 『遅ーい、コーリュー! いま、どこ?!』  いきなり怒鳴り声が電話越しに飛び込んできた。 「実はまだ、東京」 『えーっ、なんで!?』 「それが事故っちゃって」  瀬名が電話の相手に向かって事情を説明する。 『そんなの、わるいのはその女じゃん!』 「そうかもしれないけど、ひいてしまったのはぼくだから……」 『なにが、ぼくだから、よ。しっかりしなさいよ。日本に帰ったのいつよ?  時差ボケで注意力散漫になってたんじゃないの』 「それもあるかもしれない。……とにかく、島には帰れない。みんなによろしく伝えてくれ」 『みんな、コーリューがくるのを楽しみにしてたんだけどな』 「わかってる。本当にすまない」  見えない相手に向かって頭を下げると、瀬名は通話をきった。  ヒグラシが去る夏を惜しむかのように鳴いている。  4年ぶりに帰ってきた日本だが、帰国早々トラブルにあってしまった。 「メアリーにも報告しとくか……」  瀬名は気鬱げにつぶやくと、国際電話をかけた。  早口の英語でまくしたてられるのを覚悟する。  メアリーはいうだろう。 「すぐもどってきなさい」と……。
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