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⑦
翌日もまた瀬名は入院先の病院にいった。
七海の容態が気になる。
医者の話では、この先、歩くのが困難になるであろう、との診立てであった。
自分の不注意でひとりの女性の人生を狂わせてしまうことになるかもしれない……。瀬名は重い自責の念に駆られていた。
「知らねえで済むと思ってやがるのか!!」
廊下にでると七海の病室のなかから物騒な物音と怒鳴り声が響いてきた。
何事だろう? だれかが一方的にまくしたてている。
軽くノックして個室のドアを遠慮がちに引き開ける。
見知らぬ男がいた。
まだ若い。
歳は27,8といったところか。
高価なスーツをだらしなく着崩したヤクザふうの男だ。
入ってきた瀬名に向かって険悪な視線をぶつけてきた。
瀬名はベッドの上の七海をみた。
顔を強張らせてうつむいている。
母親はそんな娘を守るかのように男の前に立っていた。
「だから何度もいってるじゃないですか、うちのひとはいま行方不明になっていて警察にも捜索願をだしているんです」
「じゃあ聞くけどよ奥さん、借金はあんたが、フケた旦那の代わりに払ってくれるんだよな」
「それは……」
「どうなんだよ、おい、こらっ!」
ズボンに両手を突っ込んだまま、男は母親に詰め寄りすごむ。
「いい加減にしないか」
たまらず瀬名が口をだした。
「ここは病室だぞ」
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