トレモロ

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そのまま、彼がクラスへ姿を見せずに更に一週間が経ってしまった。 そんなある日だった、ある男子生徒がクラスの入り口で私の名前を呼んだのは。 「佐橋さんって誰ー?」 クラスメイトを通すわけでなく、いきなりクラスに入ってくるものだから、みんなビックリしている。 見知らぬ生徒に、私も名乗りを上げることができない。 すると、言い出せない私の様子を察したらしいまみちゃんが、私の方を指差した。 「千香なら、一番後ろの子だよ」 まみちゃんの言葉を聞いて、男子生徒は私に向かって足音を立てて歩いてくる。 えっ、誰だろう、全然知らない。 私、何か目をつけられるようなことをしただろうか。 そんな覚えはないけれど……。 逃げ出したかったが、逃げ出せず、席に着いたまま顔を上げる。 すると、私の目の前まで来ると、その男子生徒はニッと真っ白な歯を見せた。 「佐橋さん?」 「……そうですけど」 「俺、遥の友達」 ”遥”と言われても、最初は誰だか分からなかった。 でも、彼が空いたままの隣の席を叩くと、その相手が朝生君なのだと初めて気が付いた。 「遥、今ずっと学校休んでるっしょ。あれ、怪我が酷いからでね」
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