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「そうだったのか」
自分でも笑ってしまえるくらい呆けた声で、慎は大きく息を吐いた。
「いやだなあ、慎君が知ってるくらいなら、話は広まってるわけ?」
「お前が嫁取りすることで話が決まった、と」
「冗談だろ!」
武はカラカラと笑い、あ、と眉をひそめた。
「どの程度知られてるんだろう」
「さあ。自分で確かめてみれば」
「そうする!」
駆け出そうとする武の背に、慎は声をかけた。
「武君!」
「何! 僕、急いでるんだけど!」
「手短に言う。野原君が学校を辞めた」
「えっ!」
何故、と問いかけて、武は顔をひきしめ、「情報、感謝する」とつぶやいて、今度こそ威勢よく駆け出した。
あっという間に見えなくなった友人の背に、速く走るだけで行き先もわからず、どうするつもりだ、と慎は思う。
今日はまだ校内にいるかもしれない。が、とうの昔に荷物をまとめて下宿も引き払っている可能性もあるのに。
それにしても、友人の態度はわかりやすく、清々しさすら感じる。
早く彼女をつかまえてこい。
慎は、武から思いっきり遅れて、学校の門をくぐった。その際、校門の向こう側から出てきた人とばったり出くわす。
やり過ごそうとして右へ避けると相手も右(つまり左)、ならば、と左へ避けたら左へ来るいわゆるお見合いというやつだ。
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