第1章

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購買部が開くにはまだ早く、茶や牛乳でも買って……というわけにもいかなくて、ふたりはベンチに腰掛けた。 少し前まで、ここは三人で語らう場所だった。 特に予定がない時に自然と足が向く。すると三人が揃う。集えば場所を変えたり、その場で議論する。いなくてもここで時間を潰していれば三人になっている。 待ち合わせ時間も兼ねているここにいれば、きっと、武がやってくる。 武君、早く来い。 さわさわと風は朝の爽やかさと雲霞を運び、虫を追い払う手が同時に上がって、二人そろって吹き出していた。 「折り入ってふたりきりで話すのは、初めてね」 野原は言う。 「そうだったかな」 ベンチの背もたれに身体を預けて、組んだ足を揺らして慎は応える。 でも――その通りだったかもしれない。 慎も野原も、どちらかも一人で行動する傾向がある。彼らの触媒になっていたのが武だった。 その証拠に、武と慎、武と野原と、ペアを作ることはあっても、武抜きでわざわざ待ち合わせることはなかった。 これは、お互い異性同士で理由なくふたりきりで合わないようにしてきた本能のようなものだったが、武にはその危機感はおそらくない。彼女を大切に、友人以上の存在として見ているのは間違いない。慎は武と野原がふたりでわいわい言い合いながら歩く姿を見かける機会が増えて以降、彼女とふたりになる機会は作らないようにしていた。 そういえば。 慎は思いついた。 今日は武と会っていない。昨日も一昨日も。 休暇を取り、田舎に帰っていたからだ。
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