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「あっちにも逃げて行ったわ!」
野原だ。そして、多分、もうひとりは、当然。
「さっちゃん、箱を!」
……武君か。
成る程、ひよこをばらまいた張本人はこのふたりなのか。
しかし、何故だ。
慎は足元で丸くなってるひよこを、かがんで手の平に乗せた。
雛は小さなくちばしを動かし、ちよちよとさえずっている。
「おーい、そこにいる人! 逃げたひよこをつかまえてやってくれたまえ! 潰さないで!」
廊下の影から武が木箱を抱え、彼の後から野原が続いて出てくる。
「何だ、慎君か」
「ひよこ、来なかった?」
「ああ、その辺にいるのではないかな」
「まあ、外へ出たら大変なことになるわ!」
野原は武を追い越して手際よくぱっぱとひよこを箱に突っ込んだ。
「突っ立ってないでつかまえてくれよ!」
「武君もだろう、ほとんど野原君が働いているようだが」
「うるさいいいー!」
ぴよ、と慎の手の上にいるひよこが合いの手を入れた。
「ひのふのみの……何羽いればいいのかしら」
男たちに構わず幸子は箱の中を見る。
「十二羽です」
おろおろとうろたえて、まるでベソをかいているような女の声だった。
新たな声の登場に慎は顔を上げる。
「十一羽よ、一羽足りない!」
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