第1章

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「あっちにも逃げて行ったわ!」 野原だ。そして、多分、もうひとりは、当然。 「さっちゃん、箱を!」 ……武君か。 成る程、ひよこをばらまいた張本人はこのふたりなのか。 しかし、何故だ。 慎は足元で丸くなってるひよこを、かがんで手の平に乗せた。 雛は小さなくちばしを動かし、ちよちよとさえずっている。 「おーい、そこにいる人! 逃げたひよこをつかまえてやってくれたまえ! 潰さないで!」 廊下の影から武が木箱を抱え、彼の後から野原が続いて出てくる。 「何だ、慎君か」 「ひよこ、来なかった?」 「ああ、その辺にいるのではないかな」 「まあ、外へ出たら大変なことになるわ!」 野原は武を追い越して手際よくぱっぱとひよこを箱に突っ込んだ。 「突っ立ってないでつかまえてくれよ!」 「武君もだろう、ほとんど野原君が働いているようだが」 「うるさいいいー!」 ぴよ、と慎の手の上にいるひよこが合いの手を入れた。 「ひのふのみの……何羽いればいいのかしら」 男たちに構わず幸子は箱の中を見る。 「十二羽です」 おろおろとうろたえて、まるでベソをかいているような女の声だった。 新たな声の登場に慎は顔を上げる。 「十一羽よ、一羽足りない!」
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