9人が本棚に入れています
本棚に追加
「これも数の内に入るか?」
ぴいぴい鳴く雛を顔の前に突き出され、武は「もちろんだよ!」と答える。
「わかった」と言って慎は木箱にひよこを加えた。
「すみません、ありがとうございました」
女は何度も何度も頭を下げた。
雛たちの合唱は儚くて、どこか気が抜ける。慎は会釈もそこそこに武たちの脇を抜けた。
「ありがとう、助かったよー」
「それはよかった」
「また後でね」
「ああ」
慎の背後から聞こえてくる会話は打ち解けたものだ。
武君の知り合いなのか?
少しばかり気になった。しかし、頭を上げたり下げたりが忙しくて、顔も満足に見えなかった女はただの通りすがりでしかない。
私には関係ないな。
慎は歯がすり減った下駄を引きずり歩く。先を行く間に、女のことも、鼻緒に身を寄せた雛の温もりも、すっかり記憶から抜け落ちていた。
最初のコメントを投稿しよう!