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なおさら放っておけない。
声がする方へ足を向けると、布地が裂ける音がした。
「止めて! 人を呼びますよ」
「呼べばいいさ、誰が来る? お前を助けてくれようとするっていうのか? そんな酔狂な男、いるもんか」
男と女がもみ合う様子に、野次馬が集まってくる。娯楽に乏しい昨今、女には災難なことだが、襲われる様ですら見世物になってしまう。
まずいな。
慎は周りを睥睨する。大男から睨まれてこそこそと逃げる出歯亀に一瞥をくれ、彼は路地に向かう。
「おとなしそうな顔して、方々に取り入ってるって知らない奴は学校内にいないんだぞ! おかしいだろ、男だって普通に出願したってうちの学校にはまず入れないんだ、柊山に身体で物言わせて席を用意させたってもっぱらの噂だぞ!」
野原は福留へ気丈に言い返した。
「先生は、そんな方じゃありません!」
「同感だな」慎は彼女に同調した。
福留は飛び退いて、闖入者に向かって大声を出した。
「わ、悪い趣味だな!」
「そりゃどうも」会釈して応える。「君よりはましだと思うが」
きょろきょろと視線を彷徨わせ、福留は思いついたように言う。
「どうだ、きさまも混ざらないか。一人も二人も同じだろ」
「は?」
彼が顎をしゃくった先にいるのは野原だ。
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