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信じ難いことだが凪雲の言葉に刑事が頷いている。この分では、すでに四階部分の床の精査は行われたのだろう。雪也は頭を抱えてしまう。
「空気抵抗の少ない形状を追求しているうちに、ここの形状が錐になったと考えられます。理想を言えば円錐が良かったのかもしれませんが、当時の建築技術の限界ゆえに四角錐が採用されたとしましょう」
雪也は無意識に唇を噛み、凪雲の述懐に耳を傾けている。
「話を今日の事件に戻しましょう。ところで、この家屋は二階までは極彩色のヒンズー教寺院に似ていますが、三階と四階は外壁が白い。たとえば今日のように濃霧の出ている日なら、白色の外壁をした五メートル四方の四角錐、つまり四階部分が空中に飛び上がっていても、気づかれる可能性は低い。もし誰かが見ていれば未確認飛行物体だと思ったかもしれませんが」
凪雲は言いながら首を巡らせると、雪也に目を向けてくる。雪也は黙して考え込んでいる。
「四階を上昇させ、その直後に地下まで落下させることで、ちょっとした地震のような揺れが起こることはあったかもしれません。その際に地下階の床に亀裂が入ったり、熱された四階の床面が、地下のコンクリートを焼いて変色させることも起こりえた。また、三階の家具や床を抜いた時に辰砂の赤い粉がこぼれて、下の階まで飛び散ったり、地下に落ちた四階部分の内部にも入り込んで、床を血のように赤く汚してしまう事さえあったかもしれない」
キプリング一家の面々は言葉もないようだが、雪也も同様である。本当に、そんなことが起こりえたのだろうか。それに、この中の誰かが、その大掛かりで大胆すぎる真似をしたというのか。雪也には、それが誰なのか推測さえできない。
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