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「恋歌知らなかったの?」
「てっきり既婚者かと……」
「マスター指輪してないじゃん」
コーヒーを注ぐマスターの左手を思い出す。
薬指には何も付いていなかった。
「言われてみると確かにそうですね」
一番後輩の恋歌を除き、風奈と日向はもう一年近くこのカフェで働いているが、マスターに浮いた話は一つも聞いたことがない。
「でも、なんで独身なんだろう?あんなに格好良いのに……」
「そういえば、先々月辞めた北原先輩って、告白してフラれて辞めたって本当かな?」
日向はふとそんな噂を思い出した。
「北原先輩って、誰ですか?」
「ああ、あんたの前に働いてた人だよ」
それを聞いていた風奈がポン、と手を打ち身を乗り出した。
「それあたしも聞いた!てか、見た!」
「え、見たってどういうことよ!?」
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