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放課後の図書室。
彼女は決まっていつも夕方5時にやってくる。
申し訳無さそうにドアを開け、カウンターに座る僕に向けてニッコリ笑って手を振る。
それから10分ほど時間をかけて二冊の本を選ぶ。
恋愛、ファンタジー、ミステリー、サスペンス、ノンフィクション……。
彼女はいろんなジャンルの本を読む。
どうやら今日は失恋と感動モノらしい。
本を選んだ彼女はいつも同じ窓際の席に座る。
そこがもう彼女の指定席なのだ。
窓を開けておいてよかった。
そう思うのは、図書室中にキンモクセイの甘い香りが漂っているから。
鼻孔をくすぐる甘い香りは、僕と彼女をそっと抱きしめるかのように図書室中に優しく漂っている。
そんなキンモクセイの香りを孕んだ秋の風は、静かに吹き、カーテンにユラユラと波を作る。
たまにふわりふわりと浮かんで沈む光景は、まるで昨日の彼女。
「(それでも平然を装っているつもりなのか??……)」
いつもなら、サラサラと彼女の長い黒髪が風によって流れても、本に集中している彼女はそんなこと気にした様子もない。
けれど、それを煩わしそうに耳にかけるほどに、やはり今日の彼女は本に集中など出来ていない。
それが彼女の気持ちを表す何よりの証拠だというのに。
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