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俺はあの時、確かにトラックに跳ねられて死んだはずだ。
なのに視界に広がるのは大自然。
状況に理解出来ない俺はただ唖然とその場に座り込むばかりだった。
(夢・・・いや、これが死後の世界ってところなのか?)
少し落ち着いてきた俺はまず状況把握をするため、身の周りを確認する。
周りに人の気配はない。
着ている服は通っている学校の制服。
側にあるのは学校のカバン。
携帯を確認するが電源が点かなかない。
トラックに跳ねられた時と同じ格好のままだ。
やはりここは死後の世界なのだろう・・・。
自分の死を受け入れた時、背後の茂みがガサガサと動いた。
「誰だ!?」
「ひっ、ご、ごめんなさい・・・!」
茂みから表れたのは小さな子供だった。
子供は俺はを見るなり体を震わせて怯えてきた。
そんな子供の姿に俺は眉をひそめてしまう。
子供の顔は無造作に伸ばされた黒髪で良くわからないが、体にボロボロの白い布を巻きつけ腰あたりに紐で固定しているだけの姿で腕や足にはアザだらけだったからだ。
誰が見ても異常の姿だ。
「ごめんなさい・・・直ぐにどこかに行きますから、殴らないで下さい」
「あ、待って」
震えの止まらない足を必死に動かそうとする子供に俺は声を掛けた。
「そんな格好じぁ、寒いだろ? だからコレ・・・」
「?」
体を震わせながらその場で止まる子供に俺はなるべく怖がらないよう、ゆっくり近づき着ていたベストを子供に羽織らせた。
「・・・?」
理解が出来ていない子供に俺はなるべく優しく話かける。
「肌寒いのにそんな格好じゃあ風邪を引く。余り変わらないかもしれないが、無いよりはマシだと思うから」
「ッ! あ、ありがとうございます・・・」
一瞬驚いた子供は、直ぐに嬉しそうな声でお礼を言ってきた。
俺はただはにかんだ笑顔をするだけだった。
酷い虐待の末、亡くなってしまった子供なのだろうか。
死後の世界だと思っている俺は、自分と境遇に似ている子供に目が離せなくなった。
「俺は透。名前はなんていうんだ?」
「・・・ヤタガラス」
なんて名前をつけてるんだよ・・・
いや・・・普通の名前はあるが、この子の前ではそう呼んでいたのだろう。
「ヤタって呼んでもいいか? てか、お前って女?」
「うん、女の子だよ」
「そっか」
俺はヤタに話かけながら前髪を掻き上げる。
前髪から出てきた顔は、赤い夕陽色の瞳が印象の西洋の顔立ちだった。
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