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「うわ」
突然、衝撃があったかと思うと何かが目の前に転がった。
ぶつかったのだ、と理解するのに一瞬かかった。
件の女子生徒、如月零である。
「…おー…びっくりした…」
二重の意味を込めて呟く。
記憶する限り一貴は零が疾走する姿を見た事が無い。
それも前方を確認せず、こちらにぶつかるほど慌てている姿など、前代未聞だ。
腕時計を確認すると五限目の終わりであった。
こんなナリだが授業はサボったためしの無い零が、こんな所に転がっているのも、妙だった。
何かあったのだろうか。
(できれば関わりたくない…)
他の教師同様、一貴も例外無く零には不干渉を通して来た。
と、いうより、さしたる志も無く教師になった一貴は全ての生徒に不干渉だ。
若い上に愛想と顔だけは良いのでそれでも生徒達には一定の定評があるが、そこはさすが子どもたち、反旗を翻す事も無い代わりに進路相談や人生相談を一貴に持ち込む事は無かった。
面倒くさい人間関係を避けたかった一貴としてはその位置づけに十分満足していたのだが…。
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