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レイラはヘラヘラ笑い、しかし瞳は宙をさ迷いながら、「……なにがですか?」と聞いた。
「だから。靴のとき」
「あっ! そうか。うーん、恥ずかしいんだけど。実は、生放送の配信に間に合いたかったんです」
「は? なにそれ、テレビ?」
「違いますよ」
大きな目が不思議そうに俺を見る。彼女は馬鹿な俺にもわかるようにゆっくりと、「パソコンの動画サイトで、いろんなお話を聞くんです。生放送で時間が決まっているので、私はそれに間に合いたかった」と、説明してくれた。
パソコンをそういう使い方をしたことがなかった俺は、ふうーんと長い相槌を打った。世の中にはいろんなものがある。素直に感心した。
「面白いんだ。いいね、楽しみがあって」
「うん、そうなんです」
肯定されたことが余程嬉しかったのか、レイラはほっこりとした笑顔を見せてくれた。俺の陰険イメージも払拭されたようで良かった。
○
その一件が、結果的に俺とレイラを近づけるきっかけとなった。レイラは畏怖するどころか逆に俺に気を許したようで、昼休みになるとお菓子を渡しに来たり、帰りに話しかけてくるようになった。べたべたするわけでもなく、さりげない程度だったので、したいようにさせていた。
そう、言うなれば、可愛いペットのような感覚だったのだ。
小さな部屋犬がまとわりついてきたところで、拒んだり警戒したりする人間はなかなかおるまい。
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