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岡崎がレイラにフラれたらしいという噂は誰かが言い出したその日のうちには、部署内全員の知るところとなった。
岡崎は会社のなかに閉じこめておくにはもったいない容姿で、本人も自覚があるのかしょっちゅう女子社員と浮き名を流しているような男だった。負け知らずの岡崎が惨敗を喫したとあっては、広まらぬ筈がない。
岡崎は表面上さりげなく振る舞っていた。それを一日続けていれば良かったのに、昼飯になった途端に彼はレイラの愚痴をこぼし始めた。
弁当に詰められた昨日の野菜炒めの残りを食べながら、余計に味気ない思いで俺ともう一人の社員、小島は岡崎の話に耳を傾ける。
食堂の隅っこで額を付き合わせる野郎の話を盗み聞きする者は誰もいない。レイラは同僚と外に出ている。
「とんでもない勘違い女です」
「勘違い?」
「自分のこと可愛いと思ってますよ」
俺は小島と顔を見合わせた。「可愛いじゃん」と小島が言う。気に食わない返答に岡崎は手振りで否定した。
「それを鼻にかけてるって話。ちょっと食事に誘っただけで“そういうのは~すいません”ってアホかって感じです。今後の飲み会とかも来るなよって思いました。俺がホテルに誘っているとでもいうんでしょうか!?」
「そうなんじゃない?」
小島が半笑いでずけずけと言った。普段の態度からどうもレイラに軍配が上がりそうである。フグのように膨れた岡崎は、その顔をそのまま俺の方に黙って向けてきた。
「あの娘天然なんだよ」
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