レイラ

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 自宅は車で約30分、2年前にできたばかりのマンションに、去年引っ越した。それまでは俺の実家で3年暮らした。結婚当初から愛は同居を嫌がっており、会社から遠かった為俺も嫌になったのだ。  エントランスに入ってふと、ここも大理石タイルだと気付く。車中は忘れていたのにまた靴のことを思い出して憂鬱になった。愛に知られたらやかましく問いつめられるから上手く隠さなければならない。  自動ドアをくぐると、中は意外と狭い。長方形の廊下の正面にエレベーター、右手にポストの羅列。そんな狭い場所で、俺と同じ年くらいの男女が言い争いをしていた。ここはよくカップルが喧嘩している。 「どけよ」  二人は俺を見ると興をを削がれた表情でポスト側に身を寄せ、俺が通り過ぎた直後に再び言い争いを始めた。ため息が出る。このマンションは前からちょっと変な人が多いのだ。 「ただいま」  奥から愛が無表情で顔を出した。夕飯を作っていたのか手が濡れている。「あ、お帰り」と軽く挨拶する。今日は俺に興味がないらしい。幸いと、部屋にすぐ引っ込んで例のビニール袋をタンスに隠した。隠しながらなにやってんだろうな、と虚しくなった。こんな汚い靴その場に置いて行くか落とし物保管所に預ければ良かった。わざわざ家まで持ち帰って妻の目を盗んで隠している。完全に変態のすることではないか。  リビングに戻ると、食卓には愛ご自慢の野菜炒めが並んでいた。新婚当初、と言っても四年前のことになるが、美味いと誉めたらなにかあると野菜炒めを出してくるようになった。文句を言おうものなら「あなたが好きって言った」と悪びれもしない。加減しろよ、と言いたいのをこらえるのに苦労する。好きな物を嫌いにさせる努力をしてどうする。ほぼ同じ物ばかり食べてお前は平気なのかと。
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