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愛に促されるまま席について、箸を持ったところでとうとう我慢できなくなった俺は、切り出すことにした。
「ねえ……」
「ん?」
「これ、一昨日も食べたんだけど」
「好きでしょ」
──好きでしょ。あなたが好きだって言うから作ってあげてるんだよ。好きな物なら毎日食べても平気だよね。だって好きって自分で言ったんだから。
正直、四年前の俺はそこまでの責任を感じて美味しいと言ったわけではない。新婚だったし、なんでもよく見えていただけだ。
冴えない顔色を見て、愛の表情も変わっていく。当然のことながら、「じゃあ自分で作れ」という言葉と共に、潮が引くようにおかずは下げられていった。
黙々と後片付けをしている後ろ姿を見た瞬間から怒濤に近い罪悪感が押し寄せる。愛の表情を見る限り、そこまでのダメージを受けたようにも思えなかったが、後ろ姿で表情が見えなくなってしまうともう駄目だった。毎日献立考えるのも楽ではないだろうに、可哀想なことをした。
「ごめん」
音高く冷蔵庫に収納されていくおかずを左手で引き止め、右手で愛の肩を持つ。
「食べるよ、ごめんね」
愛は無言で冷蔵庫を閉めた。無言のまま、テーブルには再び俺の分のおかずが揃った。
大して美味いとも思えない野菜の塊をつつきながら、なぜ謝ったのだろうとぼんやり考えていた。謝らなければひょっとしたら違うものが出てきたかもしれない。愛はよく拗ねるが、俺が拗ねても愛は知らんぷりだ。なぜ俺はたかが配偶者にこんなにも気を遣って生きているのだろう、馬鹿馬鹿しい。
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