レイラ

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 昨日は痴話喧嘩でいまはゴミのことで揉めているようだ。毎日毎日揉めるネタをどこから探してくるのだろう、暇な奴らだ。  物件としてはハズレだ。迂闊だった、下見に来たときは一瞬通るだけだから気にならないだろうと踏んだ。そうだ、子どもができたらどうせどこもかしこも狭く感じるのだから、早く子どもを作って引っ越そう。俺と愛の為にもそうした方がいい。愛はとっくの昔に俺との二人暮らしに飽きている。  八見レイラの靴は新しい黒色の靴に変わっていた。しれっとしたものである。彼女は昼休みになると女子社員同士で外に出てしまうので、隙を見つけるのはなかなか至難の技である。俺はレイラの半径10メートル以内をちょろちょろしながら、彼女がやっとこさ伸びをしてトイレに立ち上がったところで声をかけた。 「八見さんちょっと」 「はいっ」  弾かれたように振り返る。スカートが揺れて、彼女の膝小僧に貼られた絆創膏がちらっと映る。  そらあんな派手な転び方したら怪我もするだろう。俺はビニール袋を持って廊下の隅に彼女を導いた。 「これ、君のだろ」  てっきり、両の指を組み合わせて「そうです!」と即答すると思ったのに、八見レイラは小さな唇を山の形にして、小首を傾げた。 「……そうなのかなあ」 「おい」 「たしかに似たような靴は持ってるんですけど……」  と、すまなさそうに身を縮める。俺はわけがわからなかった。
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