レイラ

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「あのう、でも……」  まだとろとろ何事か言いかける彼女を無視し、靴を脱げと合図した。それに応じて靴は脱いだが、また止まったので、早く入れろと促した。  膝に怪我をしている方の足だということに途中で気がついた俺は、彼女の足首を支えるポーズを取り、ゆっくりと靴の中へ誘導した。結果は、ぴたりとはまった。というか、はまらないわけがないのだ。 「ぴったりだよ」  彼女はいたく赤面していた。慌てて足を引っこ抜き、「すみませんでした!」と何度も頭を下げる。 「もういいよ」  ビニール袋を丸めてポケットにしまいながら、立ち去ろうとする自分の口調は酷く投げやりで冷酷に感じた。3分で済むところを10分かかったのだ、疲れて当然だ。 「嫌いにならないでください」  背後から響いたか細い声に、足が止まる。彼女自身も思わず口から出た台詞に、自分で驚いている。彼女に対してあからさまに怒った態度をとっておきながら、随分大袈裟だなと一瞬は思った。  きっと俺は自分で思うよりもずっと陰険な物言いをするのだ。だから愛にも嫌われた。そのように考え直し、全身から怒りのオーラを解くように呼吸してから、レイラに向き直った。 「好き嫌いなんかないけど、どれだけ急いでても靴はちゃんと両方履いて帰ってくれよ」 「はい」  まだ警戒したような様子を見せるので、「それよりさ」と俺は自分の方から話を振った。 「なにをそんなに急いでたんだ?」
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