第1章

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「どうしたの?わき見なんかしちゃって」  優斗が不安そうな顔をしてこちらを見上げてくる。 「いやなんでもない。それよりこれからどうなると思う?」 「よくわからないけど。ちょっとぞくぞくしない?」  聞くんじゃなかった。  古池を通り抜けて。木々の間の小さな道を進むと開けた場所へでた。  それと同時に『ドスン。ドスン』と腹の奥から響き渡るような振動が体を揺する。  春のお花見なんか比べ物にならないようなパーティが繰り広げられていた。  綺麗なおねえさんはセクシーな衣装を着て。(そうでもないお姉さんはそれなりの衣装。)年をめしたご婦人の方はパールを散りばめた怪しげな魔女。カボチャをかぶった子供たち。男の方はドラキュラとか。フランケンシュタインの怪物とかベーシックなものが多い気がするが。とにかく老若男女入り乱れる状況だ。  そしてみんな仲がよさそうに、楽しく話し合ったり。踊ったりしている。  点在するテーブルには山盛りのごちそうが積み重なり、池の紫色。匂いからしてこれはワイン?!それを皆ワイングラスで汲んで飲んでいるのだ。  これが鶴舞公園?名古屋の中でも平和な雰囲気の公園がすっかり変貌している。  とまあこういった光景に心奪われ。いつの間にか足が自由になっていることに気づいた。    横をみると優斗も足を止め、この様子に目を丸くしている。 「にーちん。これからどうしよう?」 「一刻もここから逃げ出した方がよくない?」 「そうだね」  と、二人で示し合せ。さあ逃げようかと踵を返そうとしたところ。風向きがかわり。不思議な匂いが鼻の奥をくすぐった。  そしてドバっと口の中からよだれが満ちた。  今まで嗅いできたご飯の匂いがまるで消しゴムの削りかすかと思うくらい。食欲をそそっている。  ぐうう。と二人の腹の虫がなった。それも公園内の騒音に勝るとも劣らずくらいの。 少し手前に。料理(七面鳥的な)が乗っているテーブルがあった。これがあの匂いの主か。 「なあ優斗……」 「そうだね。ちょっと食べていこうか……」  どうやら同じことを考えていたらしい。  誰かに奪われないように小走りでテーブルまで向かい。七面鳥的な肉を手づかみしむしゃぶりつく。  「「うっうまい」」  オレと優斗の声がシンクロする。肉汁がじゅわっときて、もう歯がいらないんじゃないかって位やわらかい。
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