第1章

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 これに比べたら松坂牛とかなんて100グラム150円のミンチと大差ないぞ。(松坂牛くったことないけど)  もっと食べたい。もっと食べたい。無我夢中で食べ続けた。    それからしばらくのことはあまり覚えていない。  オレはごちそうを食べまくり、誰かがもってきたワインをがぶ飲み。普段だったら話しかけないようなきれいなお姉さんに自分から積極的に話しかけていた。  優斗の方は音楽に合わせて得意なダンスを披露している。  くるくるとなめらかに舞う優斗のダンスは観衆を魅了し。優斗の周りはドーナツのようにぐるりと輪ができている。  誰かが季節外れの打ち上げ花火を打ち上げた。  一筋の閃光が視界をかすめる。  ああ。このままこの時が延々に続いてほしい。いや続くべきだと思った次の瞬間。オレを現実に叩き落とす人物が現れた。 「いえーい。はっぴいぴいぷる」  訳の分からない奇声を発している。バックトゥーザフゥーチャーのドク博士に扮した。田辺教授。M工業大学の教授だ。  30年後のノーベル賞候補(死んでいなければね)と噂され。いつもは毅然としている彼の姿を尊敬していたのに。赤らけた顔で奇変なスキップをしている今の姿はなんと哀れな……。  せめてドク博士のコスプレじゃなければ。あんなにハゲていたとは!!  一気にクールダウン。現実に戻った。  冷静になって周りを見渡すと。田辺教授の周りに准教授やら学院生ら取り巻きの連中も大勢集まっている。  田辺教授のおでこをはたいたり。お尻を蹴飛ばしたり。すごく楽しそう。  大学にはいま誰もいないのか?と思った次の瞬間。脳裏に「あること」が蘇る。 頭から氷水をかけられたように全身が冷却した。  このままだとマズイ。  急いで田辺教授のもとに駆け寄り。「田辺先生。大学にもどってください」と大声で懇願する。しかし田辺教授は「ほわいどんちゅうぷれいいんざぱーく?」とか言って全く相手にしてくれない。  あきらめて。優斗の方に向かう。  ちょうどダンスが終わりかっこよくポーズを決めているところだった。  歓声をおくる観客の輪を強引に突破し。優斗のもとにかけよる。  観客どもは「アンコール」「アンコール」と連呼し本人もその気のようだ。 「あっ見てくれた?にーちんのために踊ったんだよ?」  優斗が満面の笑みを浮かべてオレに言う。 「それどころじゃないんだよ。このままだとまずいんだよ」
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