第1章

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「なにがまずいのさ?」  オレは優斗に説明した。  今晩。M工業大学で田辺教授主導の「ある化学実験」をすることになっていたこと。  なのに、教授がここで騒いでいること。  実験室には誰もいないこと。 「だれもいないとどうなるのさ?」 「昭和区が壊滅する」 「……マジで」  優斗の顔が真っ青になった。    アンコール。アンコール。と手を叩きながら優斗のダンスを望む観客をかき分け公園内を探しまくる。バラ園(バラを全身に咲かせた人に抱き着きかけられた)。図書館(だれもいなかった)噴水(水の代わりにチョコレートが湧き出ていた)とあちこち回ってみたが、この喧騒を解く手がかりはみつからない。  息切れして膝に手をつく。疲れた。 「にいちん。にいちん。あれみてよ」  と、優斗が指を差す。指の線上には公会堂があった。  だれもいないのか。窓は真っ暗である。 「だれもいないじゃんか」 「にいちん。理系なのにわからないの?ガラスは夜になると光を反射するんだよ」  なるほど。公会堂の窓は光を反射することなく。まるで口を開けたように漆黒だ。  なにかありそうだな。と、優斗に目で語りかける。  優斗もうん。とうなずき返事をする。  公会堂に向かい人ごみをかき分ける。   近づいてみると公会堂の窓は開け離れていた。時間から考えて今の時間帯で窓が開いているのはおかしい。なにかあるとしたらもうここしかない。  扉は鍵がかかっておらず。守衛の人もいない(代わりにカボチャが置いてあった)  真っ暗な通路はまっくら。  どこからさがそう?公会堂は四階まである。探すのに骨が折れそうだ。 「そんなとこつったてもしょうがないじゃん。まずは近くから探していこうよ」  と優斗。一階のホール入口の分厚い扉に手をかける。  ちょっと重そうなので慌てて手伝う。中は明かりがついていて。か細い光が扉を開けるにしたがい広がっていく。  どうやらいきなり当たりを引いたらしい。優斗と目を合わせてニヤリと笑う。  扉を開けきると中の様子が目に飛び込んできた。  観客席にびっしりと人が座っていた。  みんな目がうつろでぼーっとして何ごとかブツブツつぶやいている。  外の光景とはまた違う異常さに背筋が寒くなった。  優斗をみると大量に冷や汗をかいている。  その時。 「あらら。お客さんかしら?」  と声がした。あわてて声のしたステージの方を見る。
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