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「ふわぁ……」
午後の心地よい日差しが窓から降り注ぎ、私の睡魔を囃し立てる。
昨日の寝不足が祟ったのか、思わず大きな欠伸をしてしまった私に、隣にいた大場先生が大きな口を開けて笑いながら話しかけてきた。
「あっはっは! 後藤先生。寝不足ですか?」
体育教師らしいガッシリとした身体から放たれる野太い声は、私をすぐに覚醒させてくれた。
「えっ? あ、すみません。少し……」
いけないいけない。
私としたことが、学校で欠伸をしてしまうなんて。
「いつも真面目な後藤先生でも、たまにはこういうこともあるんですねえ。貴重なシーンを見れましたよ。ギャップ萌えって言うんですか? いやあ得しましたなあ」
「もう、いやですわ。恥ずかしい」
真面目……。そう。私はこの学校では真面目な教師で通っている。
だから絶対にバレてはいけないのだ。
――実は私が、同人作家であるという事実だけは。
私、〝後藤うさぎ〟は〝古都うにゃぎ〟というペンネームで、同人誌を描いている。
内容は男性向けアダルトから腐系まで、多岐にわたる。
私は男性同士の絡みも好きだし、虐められる女の子も好きだ。
勿論ラブラブも好きだし、何より乳が好きだ。
私は俗に言う貧乳のため、巨乳には憧れがある。
あの柔らかい膨らみはどんな感触なのだろう。
ああ、やわやわしたいふにふにしたいばいんばいーんしたいいいい!
そんな欲望をぶちまけて描いた乳同人は、びっくりするほど売れたものだった。
それにしても、さすがに昨日はまずかった。
次のイベントに出す作品の進みが芳しくなかったとはいえ、夜中まで執筆なんてするもんじゃない。
こんな私でも、学校では真面目な国語教師。
真面目ぶるというのも疲れるのだが、国語教師は私の夢だった職業だ。
公私混同せず、きちんとこなしてみせなければならないのだ。
そう思い、私は「よしっ!」と声をあげ、気合いを入れて立ち上がる。
「では、大場先生。私は少し調べ物をしてきますね」
「いや、疲れてらっしゃるのに熱心なことですなあ。頑張って下さい」
笑顔の大場先生に会釈をして、私は職員室を出た。
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